Pidoniaの世界へようこそ

私の標本箱から (20)

ウスイロヒメハナカミキリ(Pidonia pallida)3♂ 山梨県山梨市大弛峠 alt.1,900m 30.ⅵ.2021


日本の高山性ピドニアと言えば、中部本州に産するフイリヒメハナ・シナノヒメハナ・タカネヒメハナの御三家に、紀伊半島のオオミネヒメハナを加えた4種が別格扱いの人気種として知られており、派手さはないがワルサワダケノミハナも国内最高所に分布する一種であることは周知の通りである。そんな中、今回ご紹介のウスイロヒメハナは、高山性ピドニアの中では最もポピュラーな一種と言えそうだ。

「パリダ」の愛称で親しまれている本種の分布はほぼ中部本州に限られ、標高2,500~3,000m級の山塊の2,000m前後のナナカマドやハクサンシャクナゲなどの花上から見出される機会が多い。その名(和名)にもある通り、ほぼ全身無紋(写真上左)が本種最大の特徴ではあるものの、中には頭部や前胸背が赤黒褐色~黒褐色化する個体(写真上中)も一定割合で現れ、しかも黒化傾向の強い個体(とりわけ♀)は概して上翅の斑紋もよりはっきり鮮明に出現する(写真下)等、同所的に見られる他のヤノヒメハナ種群との区別が非常に紛らわしくなってしまう。


ちなみに、上写真の♂3個体はいずれも同日・同場所での採集品ながら、写真右個体は標準的な個体群と比べ一回り大きなサイズをしており、体型がしっかりカッチリしているほか、前胸背の膨らみもよりボリューミィで、かなり違和感を覚える個体となってはいるものの、現状ではウスイロヒメハナの個体変異範囲内と解釈するしかなさそうだ。

私自身がこれまでに彼らと遭遇できたのは、御嶽山、乗鞍岳、安房峠、南ア藪沢、大河原峠、麦草峠、本沢温泉、夏沢鉱泉、大弛峠、四阿山、奥日光などであるが、他の多くのピドニアと同じく多少なりとも地域変異が見られるようで、今後はより多方面、より多くの標本をつぶさに観察して、その実態を詳しく調べたいと思っているような次第。

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