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私の標本箱から (19)

ヒトオビチビカミキリ(Sybra unifasciata)♀ 高知県土佐山村工石山 alt.850m 17.ⅶ.1972


今を去ること半世紀も昔のある夏の日、高校生になったばかりの私は一学期の期末試験を終えた翌日、この年からの調査フィールドに設定していた工石山の登山道を勇んで登っていた。移動手段が公共交通機関しかなかった学生時代故、朝一番のバスで終点に至り、そこから未舗装の県道を1時間半ほど歩くと、やっと標高550mの登山口に到着する。ここから標高1,176mの山頂を目指すのだが、途中標高850m地点に無人の山小屋があり、その周辺には渓流も流れていて良い採集ポイントになっていた。

その日、小屋付近の林縁を丁寧にビーティングしていたところ、サルナシの蔓から落ちてきたのが本個体である。当時愛用していたカミキリ生態図鑑で確認すると、ヒトオビチビに似てはいるものの、あいにく分布地に四国が入っておらず、その後先輩に伺っても明快な回答を得ることはできなかった。

そこで、当時文通をしていた東京のS氏に相談してみたところ、標本を送ってくれればサロンで諸先輩方に見てもらって同定可能、との返事をいただき、早速数日後には東京の地に郵送された。むろん高知県初記録*となる当該標本をS氏に差し上げるつもりはなかったのだが、「ヒトオビチビで間違いなし!」との返答後も、何故かこの標本は私の手許に戻ってくることなく、なんだかんだと話がうやむやになったままに、気がつけば実に47年もの歳月が流れてしまっていた。

*高知県初記録を報告した際の短報(ELYTRA 1(1);1973)

コロナ禍もあって色々と物思いにふけっていた今年の初め、何故か無性にこの標本のことが気になり始め、S氏の同級生だった方から何とか現在の連絡先を教えていただくことに成功。3月某日思い切って電話をかけてみたところ、電話口に出られたS氏も大変懐かしがってくださり、話弾みのついでに懸案の件についても伺ってみたところ、幸いにも今現在も標本はS氏の手許にあって、しかも実にあっさりと返還の了承までいただけてしまったのである。かくしてその一週間後、当時発泡スチロールの平面に微針止めで展足していた当該採集品を、ある日母親が掃除機で吸い取ってしまったため失ったアンテナ一本だけの残念な姿はそのままに、とにもかくにも47年ぶりの再会にしばし浸ることとなった。

心の奥底にずっと引っ掛かっていた積年の懸案は、これにてやっと一件落着、本来収まるべきポジションにしっかり収まりひとまず安堵できたのは、もしかしたらコロナ禍のお陰なのであろうか!?

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