Pidoniaの世界へようこそ

私の標本箱から (17)

カラカネハナカミキリ(Gaurotes doris)



まさにこれこそ「私の標本箱」から。
ここまで標本箱の中の特定の個体に焦点を当ててご紹介してきたが、今回は標本箱一箱丸ごと、しかもPidoniaから離れて、ハナはハナでも、かのカラカネハナカミキリである。特に深い意味があってのことではないが、今現在手許を離れているPidonia標本が多数あることから、今回は敢えてPidonia以外のカミキリにスポットを当てさせていただいた。

さて、カラカネハナと言えば5~8月に山で花を掬えば全国どこででも巡り逢える“取るに足らぬ輩”との認識が一般的であろうが、その偏見はGaurotes属自体が悪いのではなく、カラカネハナが余りによく見慣れた普通種だからに他ならない。その証に、同属のクビアカハナやオトメクビアカハナは、そのメタリックな色調と上翅の渋い彫刻が愛好家の琴線を刺激し、しかもそう簡単には見つからない珍稀さも手伝って、その人気を押し上げているのである。同じ仲間でありながらも“対極の扱い”とは、まさにこのことであろう。

ただ、カラカネハナの中にも美しさでは同属他種に負けない輩が存在する。北陸から東北にかけての多雪地帯の個体群は概して美麗な個体が多く、また伊豆半島から箱根・丹沢界隈にかけての限られた地域には、嘗て“アマギカラカネハナ”と称された気品高き一群が存在する。最新の大図鑑(むし社)でも神奈川県弘法山産の個体が、それこそこれでもか!というくらい取り挙げられており、そのバリエーションの豊富さを伺い知ることが出来る。


神奈川県秦野市弘法山産

一方で、こうした特定のエリア以外のほとんどの地域では、くすんだ緑、もしくは赤紫のごくごくありふれた個体しか見ることが出来ず、それ故そうしたエリアにお住いの皆さんにとっては気にも留めない“取るに足らぬ輩”扱いとなってしまうのである。

この中型ドイツ箱にはざっと330頭のカラカネハナが鎮座しているが、行く先々で少しずつ摘まんでいたらこんな案配になっていた、というのが正直なところで、かように全国津々浦々の個体群を眺めていると、地域間や個体毎の微妙な差異が見てとれ、ある種Pidoniaと相通ずるものを感じて親近感を感じてしまったような次第。

最後に、手許標本の産地を都道府県別に記すと、北海道、岩手、宮城、山形、福島、新潟、栃木、群馬、東京、神奈川、山梨、長野、静岡、愛知、岐阜、富山、石川、鳥取、徳島、高知の20都道府県になった。残念ながらまだ半分にも満たないが、やはり採集に出向く機会のない西日本が圧倒的に弱いことを再認識。足腰の動く内に西日本にも採集に行かねば!

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